書き手にとってのデジタルコンテンツとは。
自分には関係ないと思っていた。
関係あるのは周りの人たちで、自分がやるべきことは変わらない。
そう決め込んで、のんびり高をくくってきた。
電子書籍の話である。
たぶんいまも、作家やライターのなかには
紙か電子かなんて議論は、ただただ販売形態の話であって、
書くことの中身は変わらないし変わりようがない、
と思っている人は多いはずだ。
でも、そう思っている人たちにこそ、
このインタビュー(全4回)を読んでほしい。
『もしドラ』の編集者、加藤貞顕さんが立ち上げる新メディアサイト、
cakes(ケイクス)のティザーサイトだ。
加藤さんから退職と独立について聞かされたのは、
ずいぶん前のことだった。
『もしドラ』が破竹の勢いで売れ続け、アニメ化や映画化が決定し、
その準備や調整に追われていたころだったと思う。
なぜ辞めるのか、辞めてなにをするのか、
ぼくは詳しく聞かなかった。
270万部も売れてしまったら、
アニメ化も映画化も実現し、社会現象になるほどに売れてしまったら、
そりゃあ燃え尽きてしまうだろう。
この先なにを目標に本づくりをすればいいのか、
わからなくなってしまうだろう。
そんなふうに考えて、
フリーの編集者となった加藤さんが
ゆっくりと「これから」を見つけていけばいいと思っていた。
ところが加藤さんは、とっくに「これから」を考えていた。
いや、正確には違う。
たぶん、このインタビューで語られたことのすべてを計算ずくで独立した、
というわけではなかったはずだ。
会社を飛び出した段階ではもっとぼんやりしていたはずだし、
実際に動き出してから補完され、
理論武装されていった部分も多々あると思う。
でも、なにごともそうなのだ。
飛び出して、動き出して、裸になってこそ、真剣に考えられる。
そして退路が断たれてこそ、
他者を説得するだけの迫力ある言葉を獲得することができる。
このインタビューを通じて、
ぼくも自分自身のデジタルコンテンツへの向き合い方を
真剣に考えなおすようになったし、
たぶん cakes で連載させていただくコンテンツは、
これまで紙に書いてきた文章とはぜんぜん違った姿になると思っている。
時代は、たしかに動き出した。
来年の自分がどこでどんな文章を書いているのか、
そして cakes がどんな「場」として育っているのか、
いまからとても楽しみだ。
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